2024.05.17
中国における農村開発に関する人類学的な研究
SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2023
劉丹
中国の農地制度の改革に伴い、農地や農業の集約化が進んでいる。私が調査しているこの村の周辺では、外来資本によるハスの大規模栽培が行われている。その中で、20万坪の栽培面積は比較的小規模と言える。ハスの栽培に際して、苗植え、草刈りなど作業は人力によって行われることが多い。アルバイト従業員の多くは50代、60代の婦人たちである。このような大規模栽培は村周辺の住民に一時的な雇用機会の創出につながる。村にはハスの実を加工される小型工場ができた。この加工所は栽培者らから7割から8割程度熟している状態のハスの実を買い取る。この画像は工場のオーナーとアルバイト従業員らが働いている様子である。
本研究では中国における2000年以降の農地制度の改革を取り上げる。それは農業の零細経営という問題を是正し、農民の収入を増加させ、食糧の生産を安定させるために打ち出されたものである。一方、農地制度における変動は農民にとって死活問題と言っても良い。農地制度の改革以上に農村の基盤に強く影響を及ぼしているものはないであろう。本研究では、農地制度の改革がもたらす地域社会の変化を民族誌的に記述する。それに加えて、農民がどのように農地制度の改革に対処しているのか、農業生産と地縁、血縁、宗族などの社会的なネットワークとの関係を明らかにしてく。
調査の当初は憫農農業合作社のメンバーと行動をともにしながら、一日の仕事の作業時間、勤務場所、服装、耕うん機の機種、機械の移動経路などを記録した。また、合作社の成立の経緯、現地の農業局の役人との付き合い方、仕事のネットワークなどを中心に数回のインタビューを行った。合作社の仕事現場では、ハスの実の栽培事業によって形成された一連のグループと出会った。さらに、調査者自身が住み込みを始め、草刈りやハスの収穫などの労働への参加をした。その間に、ハスの栽培から加工、販売までの一連のプロセスやそれに関連する労働組織や管理、ネットワークも調査した。それに加えて、農閑期に入った後は、葬送儀礼や「満月」という新生児の生後1ヶ月の祝いなどの通過儀礼や旧正月の行事、宗族の復興とみなされる族譜の再編や宗廟の再建などの事象を調査した。総じて、村の風俗習慣、行事、通過儀礼などを調べながら、土地制度の改革がもたらした変化を中心に調査を実施した。
調査を通して、土地制度の改革に伴い、農村部では農地の集約化・農業の機械化が進んでいることがわかった。しかし、自然環境や作物の成長過程に応じた機械が使えない作業においては、労働力の需要が依然として高い。このことは、栽培地の住民にとっての一時的な雇用機会の創出につながっている。この状況下では、管理者側にとっては労働組織や管理が課題となっている。また、栽培者や加工所の経営グループの中には、村や県の外部から移動してきた人が多かった。農業用機械、ハスの苗や加工用の機械などは江西省をはじめ、各地から取り寄せられていた。したがって、土地制度改革に伴う農業における変化は、人の移動、植物・農業用機械・資本の流通をさらに加速化させたことが明らかになってきた。また、人の移動、モノの流通、および労働の組織や管理に伴って、新たな雇用関係やビジネス関係、競争関係などが生まれる一方で、地縁、血縁、姻戚関係などの既存の社会的なネットワークが解体される方向に向かっていくとは必ずしも言えない。
派遣先滞在期間
Date of Departure: 2023/5/15
Date of Return: 2024/3/04
国、都市等
中国・湖南省
機関名、受入先、会議名等
憫農農業合作社
発表題目
農地集約化に向けた労働組織・管理と地元:内陸農村部の事例を中心に
派遣中に学んだことや得られたもの
現地調査に際して、SOKENDAI派遣研究プログラムの関係者の皆様や指導教員、および現地の方々からお力添えをいただきました。心より御礼を申し上げます。以前、研究者はどんどん孤独になっていくという話を耳にしたことがあります。派遣プログラムをきっかけに、多くの方々のお力添えがあってこそ、調査を無事に終えることができたと気付かされました。今後は、これまでの学びや研究成果を還元できるように励みます。
文化科学研究科 地域文化学専攻 劉丹