2024.02.28

モンゴル国における家畜の交換に関する文化人類学的研究

SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2023

BAT-OCHIR BALJINNYAM

人類文化研究

モンゴルにおける義賊「トロイ・バンディ(1834-1904)」の記念石像。

17世紀末、モンゴル高原で誕生した「シリーン・サイン・エル(平原の良き男)」の記念の石像に関する画像です。当時、彼らは貴族や金持ちの家畜を盗んで、それをもっと貧しい人々に分配していました。彼の物語は社会主義時代に封建主義と闘う英雄として強調され、現在でも語り継がれています。1999年、そんな義賊の中でも最も有名なトロイ・バンディの石像が、モンゴル国の南東部のスフバートル県に建てられました。その石像は現在、モンゴルの男性たちにとっての「聖地」となっています。

本研究の目的は、モンゴルで行われている遊牧にともなう「家畜泥棒」が一種の交換である、という仮説を立て、モンゴル遊牧世界の交換活動の実態を明らかにしようとしています。過去、数十年の間に、環境人類学的な牧畜論、経営戦略的な牧畜論、牧畜集団の組織論、あるいは儀礼から見た牧畜論といった研究がなされてきましたが、「家畜泥棒」に代表される家畜の奪取を視野に入れた研究は一切なされてきませんでした。筆者はフィールド調査(聞き取り調査や観察)を通じて、「知り合い同士」の家畜の取り合いがまるでゲームのように行われており、それが「泥棒」とは認識されてこなかったことを発見しました。さらにモンゴル高原には家畜を奪い人々に分配していた「シリーン・サイン・エル(平原の良き男)」と呼ばれる人々の物語が語り継がれていることにも注目し、その意味を考察中です。

今回は、研究における論証の精度を上げるために、社会・文化人類学的なモンゴル研究の世界的な中心の一つであるケンブリッジ大学のモンゴル・内陸アジア研究所(MIASU)に訪問学者(Visiting Scholar)として滞在し、モンゴルに関する古い文献資料や内陸アジア研究の最新動向を調査しました。また研究結果をケンブリッジ大学のモンゴル・内陸アジア研究所(MIASU)ランチタイムセミナーで「Livestock exchange – “positive-depriving reciprocity“ in Mongolia」というテーマで発表しました。発表を通じて、私の発見の新奇性や、私の提唱する「肯定的互奪性」概念に非常に興味をもっていただきました。今後の研究課題としては、これらの成果を更に深く分析していきたいと思っています。

派遣先滞在期間

Date of Departure: 2023/09/26
Date of Return: 2024/01/22

国、都市等

イギリス

機関名、受入先、会議名等

Mongolia and Inner Asia Studies Unit - University of Cambridge
ケンブリッジ大学-モンゴル・内陸アジア研究所(MIASU)

発表題目

Livestock exchange – “positive-depriving reciprocity“ in Mongolia.
(モンゴルにおける家畜交換「互奪性」)

‍派遣中に学んだことや得られたもの

ケンブリッジ市の道通りにて。
(2024年1月)

本プログラムによる経費支援のお陰で、イギリスで長期の研究活動を遂行できたことに深い感謝を表明します。研究活動によって得られた研究データは、博士論文の執筆や将来の研究において非常に有益でした。このプログラムへの認可に心から感謝しています。また総研大の主指導教員である島村一平教授や関係者の皆様の変わらぬ支援に心からの御礼を申し上げます。今後も研究成果を還元し、学術界に貢献できるように精進してまいります。

文化科学研究科 地域文化学専攻(SOKENDAI特別研究員(挑戦型))
Bat-ochir Baljinnyam(バトオチル バルジンニャム)

PAGE TOP