2023.09.21
電波望遠鏡の観測視野を拡大させる「マルチビーム受信機」の光学設計に関する研究
SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2023
政井崇帆
左上はアルマ望遠鏡の12mアンテナを示しており、赤枠部分がバンド8受信機(385-500 GHz)です。受信機の先端には受信機光学系があり、フィードホーン(赤丸部分)とリレー光学系(青丸部分)で構成されており、その後ろにはサブミリ波回路があります。マルチビーム受信機はこれらを一つの受信機に複数個合わせるような装置になります。図右上は今回行ったマルチビーム受信機の一つのピクセルの光学設計の様子です。これは一つのピクセルに合わせて二つの楕円鏡を用いて焦点を合わせるように設計しています。右図下は今回行ったMagic Teeの設計様子になります。Magic TeeはY字型の分岐に垂直に別の導波管がつながっているような形で、①から入力される信号は②と③に分岐されて出力されますが、④からは出力されません。Magic Teeのポートは①と④、②と③で分離度が高いため、信号が入力されても分離されているポートからは出力されずに残りのポートに分かれて出力されます。
現代の天文学では「どのように今の宇宙ができたか」が大きな課題の一つであり、様々な天体をあらゆる波長帯で観測する必要があります。その中で天体の物理状態などに関する情報を得るために宇宙電波の観測は欠かせません。電波観測でターゲットの天体によって、空間的に広がった構造や広天域に渡って観測する場合があり、望遠鏡に広い観測視野が要求されることが多々あります。電波望遠鏡の観測視野を大幅に拡大させるためには「マルチビーム受信機」という装置が必要になります。マルチビーム受信機は光学カメラと同様に多数の検出器が一つの装置に搭載されているため、天球面上の複数点を同時に撮ることでより広い領域を観測することができます。
今回SOKENDAI研究派遣プログラムを利用してNRC HAAに二か月間訪問し、Douglas Henke氏の協力下で、1)385GHz-500GHz帯(現在のアルマ望遠鏡のバンド8の観測周波数帯に対応)のマルチビーム受信機光学系の設計と、2)(サブ)ミリ波受信機のミリ波回路の部品設計、の二つの研究を行いました。光学系はマルチビーム受信機の個々のピクセルに合わせた鏡の設計とコンパクトに収まるような配置を探りました。ミリ波回路部品は電波信号を分岐・分離させるMagic Tee導波管分岐と呼ばれる部品の初期設計を行いました。Magic Teeは電波望遠鏡用受信機であまり使用されおらず、従来のY字型分岐やT字型分岐に比べてポート間分離度が非常に高いため、電波望遠鏡受信機のあらゆる回路で応用が可能と考察しています。派遣中では1) と2) の初期の設計が中心になり、現在はその続きのより精細な設計を進めています。
派遣先滞在期間
Date of Departure: 2023/04/19
Date of Return: 2023/06/19
国、都市等
ビクトリア、ブリティッシュコロンビア州、カナダ
機関名、受入先、会議名等
National Research Council of Canada, Herzberg Astronomy and Astrophysics Research Centre (NRC-HAA)
派遣中に学んだことや得られたもの
派遣中、研究所全体のセミナーで発表する機会を頂き、電波以外で望遠鏡の光学設計を行っている研究者と自分の研究を進めるための有意義な議論をすることができました。HAAは分野や学生教員などの身分関係なく気楽に議論・雑談できる雰囲気で、アイデアの共有がかなり活発だったことに特に刺激を受けました。また、ビクトリアは自然に囲まれており、春季の天気は穏やかで、研究に集中できる良い環境だと感じました。
物理科学研究科 天文科学専攻 政井崇帆
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