2023.04.28

干渉計画像に存在する相関ノイズの下でのエラー解析

研究論文助成事業 採択年度: 2022

津久井崇史(修了生)

天文科学

Estimating the statistical uncertainty due to spatially correlated noise in interferometric images

掲載誌: Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems発行年: 2023

DOI: http://dx.doi.org/10.1117/1.JATIS.9.1.018001

擬似的に生成した近接するピクセル間で相関を持ったノイズ画像と、相関を持たないノイズ画像との比較

左の図は擬似的に生成した近接するピクセル間で相関を持ったノイズ画像、右の図は相関を持たないノイズ画像を示している。どちらも同じ強度の揺らぎを持つが、見た目が異なり、それぞれ結果の不確かさに与える影響が大きく異なる。実際の干渉計によって得られる画像データは天体からの光の分布と、これらのノイズ画像(左)が足し合わされたものとなります。

電波観測干渉計は一つの天体を複数のアンテナでの同時観測することによって、複数のアンテナを一つの望遠鏡として機能させる技術です。チリにあるALMA望遠鏡は66台のアンテナを持ち、観測できる波長帯域では世界で最も高い分解能と感度を持つ電波干渉計として、最遠方の渦巻銀河の発見(https://www.nao.ac.jp/en/news/science/2021/20210521-alma.html)や星や惑星の誕生の過程の解明など、宇宙の幅広い分野で活躍しています。

 科学的発見のプロゼスにおいて、ノイズによる不定性(ノイズによって測定値はどの程度揺らぐか、どの程度の確率でノイズが発見だと思われる信号を作り出してしまう可能性があるか)を正しく見積もることが重要です。干渉計観測では各アンテナからのデータをコンピューター上で合成し画像を作る複雑な解析手法を用いているため、得られる画像には観測ごとに異なる複雑な相関パターンを持ったノイズが含まれています。上の図では、実際の干渉計観測で得られる画像に存在するノイズと同じ相関パターンを持ったノイズ(左)と、相関を持たないノイズ(右)を示しています。

これまでの文献では、このような相関パターンを持ったノイズが引き起こす測定量の不定性を正しく見積もる方法がありませんでした。本研究では、干渉計画像に存在するノイズの特徴を自己相関関数によって測定し、測定した自己相関関数から、様々な測定量に対するノイズによる不定性を導出する方法を提案しました。私たちは、さらに先行研究で用いられてきた近似的な手法では、実際のノイズの相関パターンと異なり、不定性を過小に見積もってししまうことを示しました。

 電波干渉計の画像を用いた多くの研究論文では、測定結果に対するノイズに起因する不定性の見積り方法が記述されていませんでした。ノイズの性質の正しい理解と不定性の正しい見積り方法が確立されていなかったためと考えています。本研究はこれらの答えを提示することで、今後分野の再現性の担保が促進すると考えています。本研究で開発した手法は誰でも簡単に使えるようオープンソースコード(ESSENCE: Evaluating Statistical Significance undEr Noise CorrElation)として、公開しています。

書誌情報

  • タイトル:Estimating the statistical uncertainty due to spatially correlated noise in interferometric images
  • 著者:Takafumi Tsukui, Satoru Iguchi, Ikki Mitsuhashi, and Kenichi Tadaki
  • 掲載誌:Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems
  • 掲載年:2023
  • DOI:http://dx.doi.org/10.1117/1.JATIS.9.1.018001

物理科学研究科 天文科学専攻 津久井崇史(修了生)

オーストラリア国立大学で銀河の形成進化の研究をしている。

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