2023.04.28
魚の微細な姿勢制御メカニズムとその神経回路
研究論文助成事業 採択年度: 2022
椙岡拓己(修了生)
Biomechanics and neural circuits for vestibular-induced fine postural control in larval zebrafish
掲載誌:Nature Communications 14, 1217 発行年: 2023
DOI: 10.1038/s41467-023-36682-y
ゼブラフィッシュ仔魚がロール方向(左右方向)に傾斜した際に、「前庭神経核ニューロン〜網様体脊髄路ニューロン〜脊髄運動ニューロン〜浮き袋の脇に位置する筋肉」という神経回路・筋肉で胴体を屈曲させる。これにより、重心(重力の中心)と浮心(浮力の中心)がずれることで、重力と浮力の作用軸にずれが生じることから、姿勢を戻す方向に力のモーメントがかかり、姿勢を立て直す。
多くの動物にとって姿勢制御は生存に重要です。姿勢が崩れると、元の姿勢に戻すような運動が引き起こされます。わずかに姿勢が乱れた際に、陸上生物では足や胴体の筋肉の収縮をわずかに変化させるという微細な方法で姿勢を立て直します。一方、魚では微細な姿勢制御メカニズムが存在するか否かはっきり分かっていませんでした。
本研究では、ゼブラフィッシュ仔魚を用いて微細な姿勢制御メカニズムとその神経回路の解明に取り組みました。その結果、魚にも微細な姿勢制御メカニズムが存在し、魚は左右方向にわずかに傾斜すると、胴体をわずかに屈曲することで重力と浮力の作用する軸にずれが生じ、これにより傾きを立て直す方向に力のモーメントが生じて姿勢を立て直していることが明らかとなりました。また、この胴体屈曲を駆動する神経回路の詳細を明らかにしました。
哺乳動物において相同な神経回路が姿勢制御に重要であることから、本研究により、この神経回路が脊椎動物で保存されていることがわかりました。哺乳類と共通性が多い一方シンプルな脳構造を持ち、脳回路の解明に有用であるゼブラフィッシュの微細な姿勢制御メカニズムを研究することで、今後、哺乳類における微細な姿勢制御に関わる神経回路のより詳細な解明や、パーキンソン病等の姿勢運動疾患の解明にもつながることが期待されます。
書誌情報
- タイトル:Biomechanics and neural circuits for vestibular-induced fine postural control in larval zebrafish
- 著者:Takumi Sugioka, Masashi Tanimoto, Shin-ichi Higashijima
- 掲載誌:JNature Communications 14, 1217
- 掲載年:2023
- DOI:10.1038/s41467-023-36682-y
生命科学研究科 基礎生物学専攻 椙岡拓己(修了生)