2021.11.17
乳酸菌の糖資化性が菌同士の遺伝子交換による進化を促進する
採択年度: 2021
基礎生物学専攻 竹中伸巧郎
基礎生物学コース
A sugar utilization phenotype contributes to the formation of genetic exchange communities in lactic acid bacteria
掲載誌: FEMS Microbiology Letters, Volume 368, Issue 17 発行年: 2021
DOI: https://doi.org/10.1093/femsle/fnab117
ノード(点)は菌株を表しており、属ごとに番号を振り色分けしている。番号、あるいは色が近いものほど(例えば青と青紫など)、進化的に近縁である。エッジ(線)は5つ以上のオーソログ(異なる生物同士が共有する、非常に似た遺伝子のグループ)を共有している菌株間に引かれる。つまり、エッジで結ばれた菌株同士の間で水平伝播(HGT)が起こっていると考えられる。赤いエッジは糖資化性(菌が利用できる糖の種類数)が高い菌株が優先的に持っているオーソログ、青いエッジは糖資化性が低い菌株が優先的に持っているオーソログの共有を示している。糖資化性が高い菌種は遠縁で且つ、生態学的ニッチを共有しているもの同士で遺伝子交換コミュニティ(GEC : Genetic exchange community)を形成している。
生物は親から子へ遺伝子を受け渡すことで自身の性質を後世へ伝えていますが、実は親子関係以外にも遺伝子を受け渡す現象があります。それが水平伝播 (HGT : Horizontal Gene Transfer)と呼ばれるものです。HGTはウィルスやプラスミドを介して遺伝子をやり取りし、細菌などの微生物でよく起こることが知られています。HGTがより頻繁に起きる生物同士は、遺伝子交換コミュニティ(GEC : Genetic exchange community)という高密度のネットワークを形成します。GECは生態学的ニッチの共有、つまり同じ環境に生息することで形成されます。生態学的ニッチ(生息環境)の共有によるGECの形成は、細菌の進化に大きな影響を与える重要な現象であるにも関わらず、これまであまり知見が蓄積されてきませんでした。
我々はGECに対する生態学的ニッチの影響を理解するためには、細菌の表現型(性質)の調査が有効であると考えました。研究対象としては、発酵乳製品、肉、野菜などの生態学的ニッチに広く生息し、ゲノムや表現型が十分に調査されている乳酸菌の一種、Lactobacillasea科を選び、ゲノムデータと表現型のデータを解析しました。
結果は、乳酸菌がもつ様々な糖を利用する能力(表現型)が、生態学的ニッチにおけるGECの形成に寄与することが分かりました。これらのネットワークは、Lactobacillasea科が野菜、乳製品、醸造環境などのニッチを共有することにより、多種多様な発酵食品の生産に関わっているという事実と一致しています。
結論として、この研究では「様々な糖を栄養源として利用できるという性質が、乳酸菌に独自の生態学的ニッチを構築させ、菌同士の遺伝子交換による進化を促進している」ということが分かりました。このような研究を進めることによって、複雑な微生物の進化の成り立ちの解明につながるかもしれません。
書誌情報
- タイトル: A sugar utilization phenotype contributes to the formation of genetic exchange communities in lactic acid bacteria
- 著者: Shinkuro Takenaka, Takeshi Kawashima, Masanori Arita.
- 掲載誌: FEMS Microbiology Letters, Volume 368, Issue 17
- 掲載年月:September 2021
- DOI: https://doi.org/10.1093/femsle/fnab117
生命科学研究科 遺伝学専攻 竹中伸巧郎
1990年千葉生まれ。総合研究大学院大学生命科学研究科遺伝学専攻。鹿児島大学大学院水産学研究科修士課程(水産学修士)修了後、某食品企業での数年間の勤務を経て、現所属に至る。海洋微生物、食品微生物の生態と進化を主に研究している。