2020.11.19
グリーンランド氷床の氷の"結晶方位差"の分析-不純物を多く含む氷の変形の仕組みを明らかにするために-
研究論文助成事業 採択年度: 2019
極域科学専攻 繁山航
極域科学コース
Microstructural analysis of Greenland ice using a cryogenic scanning electron microscope equipped with an electron backscatter diffraction detector
掲載誌: Bulletin of Glaciological Research 発行年: 2019
DOI: 10.5331/bgr.19R01
氷床氷は複数の氷の結晶から構成されており,その水分子の配列の方向(結晶方位)が変形速度を決める一つの要素となっている.本研究では,氷のc軸方位だけでなく,従来の研究であまり調べられていなかったa軸方位を高精度で測定し,氷結晶内部の微小な方位差を調べた.
グリーンランドと南極に存在する氷床の氷は,変形しながら流動し,海に流れ出ます.氷の流出の加速は海面上昇をもたらす原因の一つと考えられているため,氷床の氷の変形の仕組みを明らかにすることは,海面上昇の規模や速度を知る上で重要です.
氷の変形速度は,氷の結晶方位分布や粒径のほか,氷に含まれる不純物(陸域から供給される鉱物粒子や海塩を起源とする成分)の影響を受けることが知られています.特に,不純物を多く含む層は,変形が速いことが報告されていました.しかし,この速い変形が起こる仕組みはよくわかっていません.この仕組みを理解するためには,氷の結晶粒内の方位差を調べる必要があります.結晶粒内の方位差は,変形の度合いに応じて変化するもので,氷の軟らかさにも関係しているためです.
本研究では,不純物を多く含む氷の結晶粒内の方位差を調べるため,後方散乱電子回折装置を搭載したクライオ走査型電子顕微鏡を用いてグリーンランド氷床の氷を分析しました.その結果,不純物を多く含む氷の結晶粒内から大きな結晶方位差が検出されました.今後,変形の度合いや不純物濃度が異なる氷の分析を進めて,結晶粒内の方位差が生じる原因を明らかにすることで,不純物を多く含む氷の変形の仕組みを解明でき,将来の氷床の質量や海面水位を高精度で予測することにつながります.
成果論文の書誌情報
Bulletin of Glaciological Research, volume 37, page 31-45 (2019)
Microstructural analysis of Greenland ice using a cryogenic scanning electron microscope equipped with an electron backscatter diffraction detector(後方散乱電子回折分析装置を搭載したクライオ走査型電子顕微鏡によるグリーンランド氷床コアの結晶組織解析)
Wataru SHIGEYAMA, Naoko NAGATSUKA, Tomoyuki HOMMA, Morimasa TAKATA, Kumiko GOTO-AZUMA, Ilka WEIKUSAT, Martyn R. DRURY, Ernst-Jan N. KUIPER, Ramona V. MATEIU, Nobuhiko AZUMA, Dorthe DAHL-JENSEN, Sepp KIPFSTUHL
DOI: 10.5331/bgr.19R01
複合科学研究科極域科学専攻 繁山航