2020.11.16
アデリーペンギンは競争を避けつつ食物をとる
研究論文助成事業 採択年度: 2020
極域科学専攻 伊藤健太郎
極域科学コース
Inter-colony foraging area segregation quantified in small colonies of Adélie Penguins
掲載誌: IBIS 発行年: 2020
DOI: 10.1111/ibi.12837
(左上)アデリーペンギンの背中にGPSを装着して行動を調べた。(左下)採食場所の分離の概念。(右)ペンギンの採食場所(A)は、仮想モデル(B)と比べて、2つの繁殖地(赤と青)の間で分離していた。赤と青の細い点線はペンギンの動きを表す。実線と太い点線は採食場所の目安となる範囲を表す。
集団で生活する動物は、限りある食物をめぐって競争関係になることがあります。それを避ける方法の一つは、違う場所で食物をとることです(採食場所の分離)。例えば、海鳥の集団繁殖地が近距離に2つある場合、理論的な予想によれば両者の採食場所は分離して、競争が緩和されます。この予想の検証は簡単そうに思えますが、実際には動物の動きは競争以外の要因にも支配されるため不規則で、多くのケースでは採食場所の分離が不完全です。このため、理論で予測されるような"競争を避ける"行動が本当にあるのか、一見しただけでは判断できないことが問題でした。
そこで本研究では、まず南極昭和基地付近にある2つの繁殖地でアデリーペンギンにGPSを装着し、採食場所(A)を調べました。次に比較対象として、"競争を避けない=採食場所を分離しない"仮想モデルによる採食場所(B)を、ランダムウォークと呼ばれる方法によるシミュレーションで生成しました。これらを比較することで、採食場所が分離していると言えるのかどうかを客観的に判断しました。
その結果、採食場所の分離(離れかた)は、(A)のほうが(B)よりも有意に大きいことがわかりました。つまり2つの繁殖地のペンギンたちは、確かにお互いに食物をとる場所を分けるように行動していたのです。これは彼らが食物をめぐる競争を避けようとしていることを示唆します。
今回のシンプルかつ信頼性のある手法は他の生物種の調査データにも適用できます。今後、動物がいかにして種内競争を回避しているのかを理解することにも寄与する研究成果と期待されています。
書誌情報
Ito, K., Watanabe, Y.Y., Kokubun, N. & Takahashi, A. 2020. Inter‐colony foraging area segregation quantified in small colonies of Adelie Penguins. Ibis 35: 119.
DOI: https://doi.org/10.1111/ibi.12837
複合科学研究科 極域科学専攻、伊藤 健太郎