2020.08.25

新しい視点から見る原子核の物理

SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2019

素粒子原子核専攻 簡直人

素粒子原子核コース

R2-19-005.png
図1: この図は我々が構成した模型を模式的に表したものです。基本的なアイディアはホログラフィックQCD と呼ばれる 5 次元時空の模型です。図の「コ」の字に沿った⽅向が 5 番⽬の空間に対応しています。丸は境界上のゲージ場,⼆重丸はバルク(5 次元時空) 中のゲージ場を表します。太い線はフェルミオンで点線は質量項です。カイラル相転移はヒッグス場HL と HR の期待値を調整することで再現されます。⻘い太線はヒッグス場に結合したフェルミオンを表しています。

私たちの⾝の回りには4つの⼒が存在します。重⼒、電磁気⼒、弱い⼒、強い⼒です。最初の2つは馴染みがあるものです。一方で後ろの2つはミクロの素粒⼦の世界で現れる⼒です。弱い力は主に放射性崩壊の⼀種であるβ崩壊などの現象を司る力です。また強い力は、陽⼦や中性⼦などを構成するクォークをつなぎとめている力です。

この中で強い⼒は量⼦⾊⼒学(QCD)という理論によって記述されます。この⼒の特徴は、粒⼦間の距離が遠くなるほどその間に働く⼒が強くなる点です。 これは他の⼒にはない性質です。例えば磁⽯の間に働く⼒は距離が遠くなると弱くなります。

このような性質があると、例えば陽⼦や中性⼦について何らかの理論的な解析をしようと思った時に困ったことが起きます。クォーク同士の距離が遠い場合には、その間に働く力が強くなって、摂動論と呼ばれる近似的な解析⼿法が使えなくなってしまいます。特に、⾼温ではバラバラに飛び交っているクォークが低温では互いに引き合って陽⼦や中性⼦を形成する現象(カイラル相転移)を解析するのが難しくなります。そのため、QCD は解析が非常に難しい理論となっています。

そこで 1つの解決策として、強い⼒を記述する理論として量⼦⾊⼒学とは異なる別の理論はないか、ということを考えました。このように同じ現象を記述する異なる理論間の性質を双対性と呼びます。

私と共同研究者は、近年の双対性の発展を背景に量⼦⾊⼒学に双対な理論を構成しました(図1参照)。これは謂わば陽⼦などの原⼦核の物理に対する新しい視点の提案です。今後は我々の理論で強い力をどこまで明らかにできるかについて研究を進めていきます。

派遣先滞在期間

2019/5/13~7/16

国、機関名

アメリカ、ワシントン大学物理学科

派遣中に学んだことや得られたもの

3 次元ボゾン・フェルミオン双対性に関する研究スペシャリストであるAndreas Karch氏の研究室を訪問しました。 Karch氏と 3次元ボゾン・フェルミオン双対性のディコンストラクションについて議論をし、研究を進展させることができました。またディコンストラクションした後での結合定数の計算⼿法を彼のもとで習得しました。新しい研究として、T変換に関する議論も行いました。


高エネルギー加速器科学研究科 素粒⼦原⼦核専攻 簡直人

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