2020.06.15

南極・昭和基地周辺の湖で独自に育まれる湖沼生態系

SOKENDAI研究派遣プログラム 採択年度: 2019

極域科学専攻 和田智竹

極域科学コース

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南極の湖底堆積物より抽出された微生物群集

南極は氷に覆われた不毛な大陸のイメージがあるが、湖の中はこのように多種多様な微生物が生息する世界となっている(写っているのはシアノバクテリア・珪藻類)。

南極大陸は多くの生物にとって低温や乾燥等の影響により地球上で最も厳しい環境として知られていますが、南極大陸に点在している独立性の高い各湖沼(氷に覆われている湖や塩分濃度が濃い湖など)では多様な生態系が知られています。湖底では、微生物群集(藻類、菌類、シアノバクテリア、古細菌など)で構築されたバイオマットが発達し、そこにはセンチュウやヒルガタワムシといった微小動物が生息しています。中でも、ヒルガタワムシは南極という厳しい環境下でも時として大増殖する現象が報告され、閉鎖的な湖沼生態系の物質循環に大きく貢献していると考えられますが、その実態は謎に包まれています。

そこで、今回は5つの湖で採取したバイオマットを対象に、①光学顕微鏡を用いて湖ごとにみられる微生物群集の特性の分析(形態分類による多様性と体サイズによる個体数推定)②ガスクロマトグラフィによる窒素固定活性の測定をすすめ、バイオマットの多様性に関し共同研究を行いました。  顕微鏡での主要な構成生物の個体数推定では、微生物群集組成の多様性には各湖の距離もしくは湖沼成立からの年代に応じた差が検出され、窒素固定活性はシアノバクテリアの割合が大きい湖ほど高い傾向がみられました。窒素はヒルガタワムシなどの生物が生きる上で必要不可欠であることから、窒素固定活性が高い湖ほど生物の多様性も高いことが示唆されました。

今後は、バイオマット微生物群集の結果とヒルガタワムシの関係性を追求し、ヒルガタワムシの南極湖沼という閉鎖的で謎に包まれた生態系における活動実態を明らかにします。

派遣先滞在期間

Date of Departure: 2019年12月9日
Date of Return: 2020年2月28日

国、機関名

チェコ共和国・チェスケーブジェヨヴィツェ
南ボヘミア大学

参加した会議名、発表題目

Polar ecology conference 2020
Diversity of cyanobacterial benthic microbial mats in five lakes, Lutzow-Holm Bay, East Antarctica

派遣中に学んだことや得られたもの

第60次南極地域観測隊で共に活動したJosef.Elster教授の下で、協同研究をする機会を頂けて光栄でした。実際に現地で採取したサンプルを使用し、生物群集組成の解析技術と藻類・シアノバクテリアの形態分類手法を習熟することができました。また、多種多様な微生物群集が各湖沼におけるバイオマットの構成を担っている事を実際に観察することにより、各湖沼における微生物群集構成の違いも学ぶことができました。


複合科学研究科極域科学専攻 和田智竹

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