2021.01.20

【プレスリリース】鳥社会にも縁者贔屓:ねぐらにおける場所取り競争

鳥社会にも縁者贔屓:ねぐらにおける場所取り競争

野間野史明, James L. Savage, Lee A. Rollins, Simon C. Griffith, Andrew F. Russell

【研究概要】

高度な社会生活を営む動物種はヒトを含む多くの霊長類でよく知られていますが、鳥類においても家族群を形成し、その内部で発達した社会行動を示す種がおよそ10%存在すると言われています。鳥類では若い個体が群れを出てつがい相手を探すのをやめ、自分の生まれた群れに留まることでつがい以外の血縁個体を含む家族群が形成されます。群れ生活において群れ生まれの血縁者だけが優遇される傾向があれば、若い血縁個体を群れに留める重要な要因になりえますが、この可能性はあまり注目されてきませんでした。私たちは、日本・豪州・英国の共同研究により、家族群を形成するクリボウシオーストラリアマルハシ Pomatostomus ruficeps の共同ねぐらにおいて血縁者が優遇されていることを示唆する結果を得ました。本種では、すべての群れメンバーが一つのねぐら巣を共有し、巣内で密接状態になって眠ります。ねぐら巣は安全に温かく眠ることを可能にしますが、巣の入り口付近で眠る個体は外界にさらされやすくなります。本研究では電子IDタグを導入することで、これまでに類を見ない詳細なねぐら行動の記録を得ることができました。この行動記録からは、群れ外から移入した個体は巣内の占有位置をめぐる競争において不利になっており、群れ生まれの個体が優先的にねぐらの利益を享受していることが読み取れました。ここから、ねぐらにおける競争で不利になることが、若い個体を出生群れから他の群れに移動することを思いとどまらせ、本種の家族群を基本とした社会を維持することに一役買っていると考えられます。

【研究の背景】

動物にみられる家族群の多くは若い個体が生まれた群れに留まる滞留現象によって維持されますが、ほとんどの種においてこのような滞留が生じる原因は分かっていません。これまであまり注目されていない可能性として、群れ生活において血縁者だけが優遇される傾向が若齢個体に群れ外への移出を思いとどまらせる要因になっていることが考えられます。
クリボウシオーストラリアマルハシ Pomatostomus ruficeps はオーストラリア南東部の乾燥地帯に生息する群居性の鳥類です。本種の群れは、若齢個体の滞留によって生じる家族群に少数の移入個体を加えた平均8個体からなる群れです(図1)。本種では、オスはほぼすべての個体が出生群れに滞留しますが、メスは大部分が移出し、他の群れに加わります。個体を出生群れに留まらせる要因として、本研究では共同ねぐらにおける群れメンバーの間の縁者贔屓的相互作用に着目しました。

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図1 クリボウシオーストラリアマルハシの成鳥(左)、血縁個体の滞留による家族群形成と非血縁メスの移入(右)

ねぐらには、枝と泥でできた巣が用いられ、通常一つの巣にすべての群れメンバーが密接した状態で収容され、眠ります。このような密接状態が低気温時のエネルギー消費を抑える役割が知られているほか、入り口の狭いつぼ型のねぐら巣は捕食者に侵入されにくいと考えられます(図2)。しかし、巣の入り口付近で眠る個体は外気にさらされやすく、捕食リスクも大きくなるため、本研究では、群れ内の高順位個体とその血縁個体が巣の奥側を独占し、移入個体が巣の入り口近くに追いやられるのではないかと予想されました。

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図2 ねぐら巣(左, 写真提供: Jodie Crane)、IDタグ記録システム(右)。

【研究の内容】

本研究では電子IDタグを各個体に装着し、タグのIDをねぐら巣の入り口で読み取る観測システムを用い、2年間の繁殖期を通して16群れの個体のねぐら巣への出入りを合計82日間自動観測しました(図2)。得られたデータを分析した結果、ねぐら内に各個体が収容される過程には個体間の競争を示すパターンが見いだされ、さらに、順位の低い移入メスと幼鳥が特徴的なねぐら出入りパターンを示すことが明らかになりました。まず、幼鳥については、飛ぶ能力がまだ低いにもかかわらず、入り順は中程度で群れから大きく遅れることはありませんでした(図3)。さらに、幼鳥のねぐら入り時とより年齢の高い個体のねぐら入り時では、周囲の群れメンバーのタグ記録のパターンが異なっており、前者では幼鳥のねぐら入りを補助するような行動を見出すことができました。一方、移入メスについては、ねぐら入り順が特に遅くなっていました(図3)。タグ記録パターンをさらに詳細に分析すると、遅くねぐらに入った個体は夜間にねぐら巣の入り口付近に出てくる頻度が高く、翌朝ほかのメンバーよりも早くねぐらから出てきており、ねぐら内での個体の位置取りは入り順と関係していることが示唆されました。これらから、入り順の遅い移入メスは幼鳥や群れ生まれの個体に比べて巣の入り口近くで眠ることが多いと考えられます。

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図3 個体クラスごとのねぐら入り順の差異の推定値(劣位メス・群れ生まれ劣位メスを基準0としたときの平均±標準誤差)。入り順は幼鳥で中程度であり(左)、移入劣位メスで最も遅い(右)。

【今後の展望】

ねぐら利用は観察が難しい夜間の行動です。本研究は、電子IDタグ記録システムを用いることで、群居性鳥類種の野生集団の共同ねぐらにおいてこれまでになく詳細な行動パターンの分析に成功しました。ねぐら利用にみられた縁者贔屓的行動パターンは、若齢個体が群れを出てほかの群れに加わることを不利にすることで、家族群形成を促進している可能性が高いですが、移入個体がねぐらでの競争によって受ける不利益がどの程度の大きさのものなのかは分かっていません。この点は今後、移入メスとそれ以外の個体の生存率を長期的に追跡し、比較することで明らかになってくると期待されます。

【著者】

  • 野間野史明
    (総合研究大学院大学・先導科学研究科・日本学術振興会特別研究員)
  • James L. Savage
    (英国・University of Cambridge・Department of Zoology;University of Sheffield・Department of Animal & Plant Sciences・研究員)
  • Lee A. Rollins
    (豪州・UNSW Sydney・Biological, Earth and Environmental Sciences・Evolution & Ecology Research Centre・研究員)
  • Simon C. Griffith
    (豪州・Macquarie University・Department of Biological Sciences・教授)
  • Andrew F. Russell
    (英国・University of Exeter・College of Life & Environmental Sciences・Centre for Ecology & Conservation・教授)

論文情報

  • 論文タイトル
    Communal roosting shows dynamics predicted by direct and indirect nepotism in chestnut-crowned babblers
  • 掲載誌
    Behavioral Ecology and Sociobiology
    DOI: https://doi.org/10.1007/s00265-020-02958-2

お問い合せ先

  • 研究内容に関すること
    野間野 史明(総合研究大学院大学・先導科学研究科・日本学術振興会特別研究員)
    電子メール:[email protected], [email protected]
  • 報道担当
    国立大学法人 総合研究大学院大学
    総合企画課 広報社会連携係
    電話: 046-858-1629
    電子メール: [email protected]

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