2019.10.08
令和元年度秋季入学式 学長式辞 【10月8日】
専攻の枠組みを超えた発想を
みなさま、本日は、総合研究大学院大学にご入学おめでとうございます。みなさんは、これからの数年間、本学の各専攻で博士号のための研究をすることになります。本学は学部を持たない大学院大学ですので、今日ご入学のみなさんはすべて、それぞれ異なる大学を卒業してここに集まってこられました。また、今日は 10 月の入学式なので、留学生の方々が多くおられます。どなたも、慣れ親しんだ場所を離れ、また自分の育った国を離れ、これから新しい場所で研究を始めるのですから、多少の不安もありながら、期待に胸をふくらませておられることと思います。このように背景の異なるみなさんが一同に会してこれからの研究生活を送ることになるのは、新しい発想を得るという意味で、とても興味深い環境なのではないかと思います。
今日は入学式ですので、この葉山本部においでいただきましたが、この先、みなさんは、日本各地にある研究所へと散らばっていきます。もしかすると、この先、二度と一緒に会うことはないかもしれない院生どうしが接触する機会として、今日の機会を存分に活用していただきたいと望みます。
総研大は、普通の大学に設置された大学院とは異なり、それぞれの専攻は、国立の研究所の中に置かれています。それぞれの研究所は、その分野で世界トップレベルの研究を行なっており、天文台や加速器などを始めとして、普通の大学では持てないような大型の装置を備えて、多くの共同研究を行なっています。みなさんは、そのような研究所に送り込まれるわけですが、大学院生とは言うものの、毎日の暮らしは、普通の大学に所属する大学院生とはかなり異なるものとなるでしょう。
先生方はみな、その分野での一流の研究者です。そんな先生方が集まって専攻を作っていますが、1学年の学生の入学定員は、それぞれ3から5人ぐらいととても少数です。学生数に比べて先生の数がとても多いということは、研究の相談をするという点では恵まれていると言えます。でも、同じ院生どうしの仲間の数という点では、少なすぎて困ることもあるかもしれません。学生どうしのコミュニティがしっかり作れればよいのですが、広い研究所に、学生がぽつりぽつり、という事態になるかもしれません。また、留学生の方々にとっては、研究所の中ではすべて英語で対応できるでしょうが、日本に住むとなると、日本語を話さねばならない状況は避けられません。
一般の大学であれば、学生のための娯楽や気晴らし、スポーツなどの機会が多くありますし、学生生活に対するサポートや相談窓口なども整えられています。しかし、本学の専攻が置かれているのは、そのような場所ではなく、研究所であり、世界最先端の研究の現場です。みなさんの生活のお世話という点では、必ずしも最良の環境とは言えないところもあるかもしれません。
しかし、総研大は大学院であり、院生のお世話をすることが使命です。この先、みなさんの研究生活の中で、何か問題が起こったり、不満があったりした場合には、躊躇せずに大学本部に連絡してください。できる限り対処して、みなさんの勉学環境を改善したいと思っております。
ただし、みなさんの研究の場が、各種の大学共同利用機関である研究所だという特殊性は、最初から理解しておいていただきたいと望みます。たとえ、学部を卒業したばかりの5年一貫制の1年生であろうと、最初からミニ研究者として扱われるということに喜びを見いだせるような、そういうみなさんであって欲しいと思います。
今日、みなさんは、どれかの専攻に入学し、これからそこで研究を始めるわけですが、総研大の全体を見ると、文系から理系まで 17 の異なる研究所と葉山の先導科学研究科とがあります。この豊かな研究環境をうまく利用しない手はありません。ご自分の専攻がある研究所だけでなく、他の研究所が何をしているのか、そこではどんな可能性があるのか、興味をもってのぞいてみてください。そして、ご自身の研究が発展していく中で、他の研究所で行なわれている研究が、なんらかの形でご自身の研究にも役立つのではないかと思われたら、指導教員の先生に相談してください。総研大は、狭い専攻の壁を超えて、学生たちが新しい可能性を追究することを奨励いたします。
また、そのことは、総研大内部の専攻だけに当てはまるものではありません。海外の大学や研究所にいる先生に、自分の研究の一部を指導してもらいたい、いっしょにディスカッションをしたいと思われたら、それも指導教員の先生に相談してください。総研大は、海外とのさまざまな研究交流の機会も設けて奨励しています。
昨今、伝統的な学問分野の壁を超え、新たな探求の地平を開くことの必要性が叫ばれています。文系と理系の融合や、新分野の創出などという言葉が飛び交っています。しかし、そんなことは簡単には実現しません。この分野とこの分野を一緒にしたら新しいことが生まれる、などと上から提案してみても、新分野が生まれるということにはなりません。
みなさんは、これからある一つの分野での研究を行い、取り上げた疑問点を解決し、何らかの発見をして、論文にまとめていくことでしょう。その中で、何か、既存の分野の常套手段である手法とは異なる手法を考えてみる、既存の分野が通常とっている研究アプローチとは異なるアプローチを考えてみる、などの、たとえ小さくても新奇な発想をしてみてください。もしかすると、そのようなことがきっかけとなって、やがては本当に新分野の創設ができるかもしれません。研究を始めたばかりの若いみなさんの方が、そのような柔軟な発想に長けているかもしれないのです。
今日の入学式のあとから、フレッシュマン・コースが始まります。フレッシュマン・コースでは、研究活動が社会とどのような関係にあるのか、研究者はどのような倫理観を持っていなければならないのか、などを考える機会を提供します。また、みなさんの先輩たちが、総研大の各研究科は、どんな研究をしているのかを紹介します。このコースを通して、今日入学されたみなさんは、同期の院生どうし、また先輩後輩の関係を通し、分野を超えて交流のネットワークを築いてください。そのネットワークが、先に述べた新しい発想を生む原動力になるかもしれないのです。
未来を作るのはあなた方です。新たなテクノロジーがどんどん進んで行く中、これからの社会がどのようなものになるのか、私たち古い世代には見当もつきません。新しい世代であるみなさんが、新たな学問の地平を開き、より良い世界を築いていってくださることを切に願います。そのための最良の環境を、総研大が提供できるよう、私たちも尽力していきたいと思います。
本日は、まことにおめでとうございます。これからのみなさんの活躍を期待いたします。
2019 年 10 月 8 日
総合研究大学院大学
学長 長谷川眞理子