2018.07.03
【プレスリリース】原始太陽系円盤の中心近くで結晶化したシリカを隕石中に世界で初めて発見
【研究概要】
総合研究大学院大学の小松睦美助教を中心とする研究グループは、隕石中に太陽が誕生して間もない頃に形成したシリカ(石英; SiO 2 )結晶を初めて発見しました。太陽のような恒星の若い段階で周りに形成される原始太陽系円盤内に、結晶質のシリカが存在していることは、これまでの天文観測により示唆されてきました。しかし、太陽系初期の情報を保存する物質である隕石中には、星雲ガスから直接凝縮したことを示すシリカは見つかっていませんでした。今回発見したシリカは、太陽の酸素同位体組成に近い値を持ち、原始太陽系円盤内の太陽のすぐ近く(約0.1AU; 地球と太陽の距離の10分の1程度)で凝縮過程を経て形成されたと考えられます。しかも、シリカを含む集合体には、スカンジウム(Sr)とジルコニウム(Zr)に富む超難揮発性鉱物が共存しており、星雲ガスが高温の状態から徐々に冷却し、高温で生じる鉱物からシリカのような比較的低温で生じる鉱物まで、連続的に粒子が成長したことがわかりました。この発見により、太陽系での物質進化の解明が一段と進むことが期待されます。本研究で用いた隕石の起源は、はやぶさ2が探査を行っている小惑星リュウグウに近い起源を持つ天体であると考えられます。このような太陽系創世期の情報を保存する物質は、小惑星リュウグウの表面にも存在している可能性が高く、今後、小惑星探査成果と組み合わせた統合的な研究を行うことで、太陽系内での物質移動についての知見が大きく広がることが期待されます。
【掲載誌】
本研究成果は、米国電子ジャーナルProceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)に平成30年7月2日午後3時(米国東部時間)に掲載されます。
論文タイトル: First evidence for silica condensation within the solar protoplanetary disk (原始太陽系円盤から凝縮したシリカの発見)
著者: Mutsumi Komatsu, Timothy Fagan, Alexander Krot, Kazuhide Nagashima, Michail Petaev, Makoto Kimura, Akira Yamaguchi
DOI : 10.1073/pnas.1722265115
【研究の背景】
近年の観測精度の向上により、太陽系外の恒星での惑星形成領域の観測が可能となりました。一方で、太陽系内の物質については、始原隕石に物質進化の情報が保存されており、恒星の観測により確認された物質の多くは、隕石中にも広く含まれていることがわかっています。
地球表層の主要な造岩鉱物であるシリカ (1) は、Tタウリ型星と呼ばれる若い恒星や、AGB星という進化末期の恒星に存在していることが示唆されています。しかしながら、始原的隕石に含まれるシリカについては、わずかの結晶が報告されたのみでした。シリカ結晶は、太陽系星雲ガスの組成からの平衡凝縮計算では理論的には形成されないため、実際に太陽系の初期にでシリカの凝縮形成が起こったのかどうかは、よくわかっていませんでした。
【研究の内容】
国立極地研究所(極地研)が所有する南極隕石である、Yamato-793261 を本研究に用いました。Yamato-793261は、1979年に第20次南極地域観測隊(JARE20)により、やまと山脈付近の氷床上で採取された始原的隕石で、炭素質Renazzoタイプ(CR)コンドライトに分類されます(図2)。
始原的隕石であるコンドライト (2) に含まれる物質の中でも、難揮発性包有物 (3) と呼ばれる集合体は、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)に富み、高温の星雲ガスから最初に結晶化した物質であると考えられています。これらの集合体は、原始太陽から発せられるガス流で、円盤内外の様々な場所に飛ばされ、一部はコンドルールと呼ばれる球状物質や低温で形成されたダストと共に、小惑星帯付近で小惑星(始原的隕石の起源天体)を形成したと考えられています(図1; 図3)。
分光学的研究により、Yamato-793261に含まれる有機物の結晶化度を調べたところ、他のCR隕石と同様に、天体での熱変成作用を受けていないことが確認されました。つまり、CR隕石の起源天体では温度は上昇せず(約200℃以下)、太陽系円盤での形成時の状況が小惑星に集積された後でもそのまま保持されていると考えられます。
難揮発性包有物の一種である、アメーバ状かんらん石集合体(Amoeboid olivine aggregates; AOA)は、かんらん石とCaとAlに富む鉱物から成り立ち、溶融などの二次的作用の程度が低く、形成直後の状態を保存する物質として知られています。本研究で分析を行ったYamato-793261中のAOA (AOA#4)には、AOAを構成する通常の鉱物であるMgかんらん石、Ca輝石、Mg輝石に加えて、超難揮発性鉱物(Zr-Sc酸化物、Sc-Ca輝石)、シリカが含まれることがわかりました(図4)。結晶構造を調べたところ、このシリカは、シリカの中でもより低温で結晶化する「石英」であることがわかりました。この集合体に含まれる鉱物が星雲ガスから凝縮する温度は、約1500℃から900℃であったと考えられます。このように、非常に広い温度領域で鉱物が凝縮された形跡を示す集合体は、太陽系物質で初めての発見です。しかも、これらの鉱物の酸素同位体組成 (4) は、太陽組成に近い値を持つことが明らかになり、集合体の鉱物の全てが、太陽に近い場所で形成されたことがわかりました。しかしながらシリカは、太陽系星雲ガス組成の平衡凝縮計算では理論的には形成されません。この発見は、太陽系円盤の中心部に、他の鉱物が凝縮することによって化学組成が分別したガスが存在し、そこでシリカが形成された証拠であると考えられます。
【今後の展望】
今後は、このアメーバ状集合体へのさらなる分析を加え、原始太陽系の超初期の物質の形成過程に関する、より詳細な条件についての議論を進める予定です。極地研の所有する南極産CR隕石は、起源天体での二次的作用の影響が少ない試料が多く、他の試料も含めた系統的研究を行うことで、始原天体の進化についての理解が進むことが期待されます。
本研究で用いた始原隕石の起源天体であるC型小惑星は、「はやぶさ2」が探査を行っている小惑星リュウグウと同じ種類の天体です。有機物と含水鉱物を含むC型小惑星は、地球の海の水や生命の原材料物質に密接に関係していると考えられる重要な天体です。今後は、始原的小惑星の探査から得られる結果と、始原的隕石の系統的研究を組み合わせることで、原始太陽系円盤での鉱物の凝縮過程から小惑星形成までの始原天体の進化について、さらなる研究を進める予定です。太陽系の進化の過程で、どのように物質が移動・共存してきたかを知ることで、地球の原材料や生命の謎を解く鍵が得られることが期待されます。
【研究サポート】
本研究は、JSPS科学研究費補助金・基盤研究(C)「太陽系初期における含水天体の進化:始原的隕石と彗星ダストからの検証」(研究代表者・小松睦美)、総合研究大学院大学平成29年度学融合推進センター萌芽的共同研究「太陽系見聞録の作成と発信―太陽系の起源と進化の統合的理解に向けて―」(研究代表者・山口亮)、国立極地研究所のプロジェクト研究(KP307)の支援を受けて行われました。
【研究メンバー】
小松睦美(総合研究大学院大学 教育開発センター)
フェイガン・ティモシー(早稲田大学教育学部理学科地球科学専修)
クロット・アレクサンダー(ハワイ大学地球物理惑星科学研究所)
永島一秀(ハワイ大学地球物理惑星科学研究所)
ペタエフ・ミハエル(ハーバード大学地球惑星科学部)
木村眞(国立極地研究所)
山口亮(国立極地研究所・総合研究大学院大学複合科学研究科極域科学専攻)
【用語解説】
(1) シリカ
一般的には石英や水晶と呼ばれるシリカ(二酸化ケイ素; SiO 2 )は、地球表層では主要造岩鉱物として大量に存在していますが、地球外物質では極めて少量しか確認されていません。シリカは、形成時の温度圧力条件により、高温からクリストバライト、トリディマイト、石英へと相転移を行い、異なる結晶構造を持つことが知られています。今回の研究でみつかったシリカは、比較的低温で結晶化する石英であることが確認されました。本論文では、結晶構造に依らない二酸化ケイ素の総称として、「シリカ」という用語を用いています。
(2) コンドライト隕石
隕石の中でも始原的なものは、コンドライト隕石(始原的隕石)と呼ばれます。主にかんらん石と輝石で構成される、コンドルールという球状粒子を含むことが特徴です。コンドライト隕石は、コンドルールや難揮発性包有物などの高温物質と、低温で形成された鉱物粒子や有機物ダストが小惑星上で集積した、いわば「堆積岩」であると考えられます。
(3) 難揮発性包有物
原始太陽系星雲の超初期の段階では、高温の星雲ガスから、カルシウムやアルミニウムに富む鉱物の集合体である難揮発性包有物(CAI; Ca,Al-rich Inclusion)が凝縮過程(気相からの結晶成長)を経て形成されたと考えられています。難揮発性包有物の形成年代はウラン―鉛系の年代測定法によると45.66億年であり、太陽系最古の物質であると考えられます。今回研究をした物質であるアメーバ状かんらん石集合体は、難揮発性包有物の一種です。
(4) 酸素同位体組成
酸素は、3つの安定同位体( 16 O、 17 O、 18 O)を持ち、その同位体組成は原始太陽系星雲の形成環境を示す重要な指標として用いられます。地球の標準海水の値と比較し、その試料がどの程度の 16 Oの「ずれ」があるかを分析すると、地球上の物質はTF線(地球物質分別線; Terrestrial Fractionation line)上にプロットされる一方、地球外物質の酸素同位体組成は, CCAM線(炭素質コンドライト無水鉱物線; Carbonaceous Chondrite Anhydrous Mineral line)上にプロットされることが知られています。今回発見した鉱物は全て、太陽の酸素同位体組成に近い値を持ち(図4グラフ左下の領域)、結晶が太陽近くで形成されたことを示唆しています。
【参考文献】
*Scott E.R.D. and Krot A.N. (2005) Chondritic meteorites and the high-temperature nebular origins of their components. In Chondrites and the Protoplanetary Disk, A. N. Krot, E. R. D. Scott, and B. Reipurth editors, Astron. Soc. Pacific Conf. Ser. 341, 15-53.
**Nakashima, D., Ushikubo, T., Joswiak, D. J., Brownlee, D. E., Matrajt, G., Weisberg, M. K., and Kita, N. T. (2012). Oxygen isotopes in crystalline silicates of comet Wild 2: A comparison of oxygen isotope systematics between wild 2 particles and chondritic materials. Earth and Planetary Science Letters, 357-358, 355-365.