2018.03.01
【プレスリリース】『岐阜市長良で発見された鉄隕石、「長良隕石」と命名』
長良隕石発見場所の訂正
平成30年3月1日付け発表いたしました長良隕石の発見場所について、住所地を「岐阜市長良宮口町」としておりましたが、正確な住所を確認したところ「岐阜市長良」であることが判明しました。お詫びして訂正いたします。
【概要】
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【発見の経緯】
2012年10月ごろ、岐阜市内に住む三津村勝征(73)が、岐阜市長良で、褐色の鉄の塊を発見し、自宅に持ち帰った。隕石ではないかと思い、2017年6月に知人で岐阜聖徳学園大学事務職員の岩佐大宣に相談し、同大学教授川上紳一研究室に持ち込んだ。鉄隕石の可能性が高かったことから、東京大学の三河内岳、国立極地研究所の山口亮、首都大学東京の白井直樹、総合研究大学院大学の小松睦美に分析を依頼した。分析の結果、鉄隕石であることを示すデータが得られたので、国際隕石学会の隕石命名委員会に隕石登録の申請を行い、「長良隕石(Nagara)」として承認された。
【学術的意義】
今世紀になって国内で発見された隕石は、2002年に秋田で発見され、国立極地研究所による分析で隕石と判明した神岡隕石と、2003年に広島に落下した広島隕石がある。今回の長良隕石の発見は日本国内では約15年ぶりの隕石発見となる。これまでに国内で見つかった鉄隕石は8個に過ぎない。岐阜県内では、1913年に坂内村で4.18 kgの鉄隕石が発見されている。坂内隕石はヘキサヘドライト
[2]
ではないかとされているが、詳細な分析データはなく、現在は隕石自体が行方不明になっている。
今回発見された隕石は、観察を行ったかぎり、鉄ニッケル合金相の離溶組織
[3]
がみられないことから坂内隕石と同じヘキサヘドライトの可能性がある。今回発見された鉄隕石が、もしも坂内隕石と同時に落下してきたものであれば、周辺でまだ鉄隕石が発見されるかもしれない。
IABグループの鉄隕石は、ケイ酸塩質の部分を含むことがよくあり、その化学組成はウィノーナアイト
[4]
と呼ばれる希少な石質隕石のグループと類似しており、これらの隕石が同一母天体に由来したという説もある。今回発見された長良隕石は、今から約46億年前の太陽系形成初期に、隕石母天体(微惑星)の内部で、金属鉄とケイ酸塩が分離した過程を探ることのできる貴重な試料である。
【分析・分類】
東京大学で電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)による組織観察および鉱物組成分析を行ったところ、カマサイト [5] 、および、微量のテーナイト [6] とシュライバーサイト [7] が確認された。カマサイトは、鉄が約93重量%、ニッケルが約6重量%、コバルトが約0.6重量%の化学組成であった。国立極地研究所のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICP-MS)による微量元素分析では、ニッケルが6.10重量%、イリジウム(Ir)が4.25(μg/g)、ガリウム(Ga)が91.6(μg/g)、ゲルマニウム(Ge)が402(μg/g)、金(Au)が1.58(μg/g)であった。鉄隕石は主にニッケルや、イリジウム、ゲルマニウムなどの量の違いによって分類されるが、本隕石は、鉄隕石の中ではニッケル含有量が低く、高いゲルマニウム含有量をもつことからIABグループに分類されることが明らかになった。IABグループの鉄隕石は通常、粗粒のオクタヘドライト [8] からなるが、本隕石について1センチサイズの研磨試料ではウィドマンシュテッテン構造 [9] と呼ばれるテーナイトの離溶組織が認められないことからヘキサヘドライトである可能性があり、そうだとすれば、典型的なIABグループの鉄隕石ではないことになる。
【謝辞・研究サポート】
長良隕石の化学分析は国立極地研究所プロジェクト研究費(KP307)および総合研究大学院大学の学融合共同研究事業「太陽系見聞録の作成と発信―太陽系の起源と進化の統合的理解に向けて―」の支援を受けて実施されました。ここに記して深謝します。
今回の共同発表者には、平成25年度岐阜大学活性化経費(研究:研究グループ形成支援)のグループメンバーが含まれている。
【隕石の公開について】
報道解禁日(3月1日)の午後3時から、岐阜聖徳学園大学羽島キャンパス9号館で、発見された隕石について、発見者が同席して記者発表を行う。また、記者発表の翌日から2018年6月30日まで、岐阜市科学館で特別展示を行う。
【共同発表者の氏名(所属)】
三津村勝征(発見者)
川上紳一(岐阜聖徳学園大学 教育学部教授/岐阜大学 名誉教授)
岩佐大宣(岐阜聖徳学園大学 実習支援センター・看護実習支援室)
三河内岳(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 准教授)
山口亮(国立極地研究所 地圏研究グループ 准教授/国立極地研究所 極域科学資源センター 南極隕石ラボラトリー/総合研究大学院大学 極域科学専攻 准教授)
白井直樹(首都大学東京 理工学研究科 分子物質化学専攻 助教)
小松睦美(総合研究大学院大学 学融合推進センター 助教)
【参考資料】
国内で発見された鉄隕石のリスト(国立科学博物館のデータによる)
隕石名 | 落下場所 | 年月日 | 落下/発見 | 分類 | 総重量(kg) | コメント | |
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福江 | Fukue | 長崎県五島市 | 1849年1月 | 落下 | オクタヘドライト | 0.008(8g) | |
田上 | Tanakami | 滋賀県大津市 | 1885年 | 発見 | IIIE | 174 | |
白萩 | Shirahagi | 富山県中新川郡上市町 | 1890年 | 発見 | IVA | 33.61 | |
岡野 | Okano | 兵庫県篠山市 | 1904年4月7日 | 落下 | IIA | 4.74 | |
天童 | Tendo | 山形県天童市 | 1910年ごろ | 発見 | IIIA | 10.1 | |
坂内 | Sakauchi | 岐阜県揖斐郡坂内村 | 1913年 | 発見 | ヘキサヘドライト(?) | 4.18 | 行方不明(レプリカ(京大)) |
駒込 | Komagome | 東京都文京区本駒込 | 1926年4月18日 | 落下 | 鉄隕石 | 0.238 |
行方不明
島(1965) |
玖珂 | Kuga | 山口県岩国市 | 1938年 | 発見 | IIB | 5.6 |
岐阜県で発見された隕石リスト(国立科学博物館のデータによる)
隕石名 | 落下場所 | 年月日 | 分類 | コメント | |
---|---|---|---|---|---|
美濃 | Mino(Gifu) | 岐阜市、美濃市、関市 | 1909年7月24日 | L6コンドライト | 脇水(1911) |
羽島 | Hashima | 羽島市 | 1910年 | H4コンドライト | 星野ほか(1990) |
坂内 | Sakauchi | 坂内村 | 1913年 | 鉄隕石 | |
笠松 | Kasamatsu | 笠松町 | 1938年3月31日 | Hコンドライト | 正村(1938) |
NiとGeの含有量による鉄隕石の分類図
【用語】
[1] IABグループ・・・化学組成の違いなどに基づいて13のグループに分類されている鉄隕石の分類群の1つ。化学組成と金属組織にばらつきが大きいが、ほとんどのものはニッケル含有量が10重量%以下である。アメリカ・アリゾナで発見されたキャニオン・ダイアブロ隕石、アメリカ・テキサスで発見されたオデッサ隕石、アルゼンチンで発見されたカンポ・デル・シエロ隕石などの有名な隕石がこの分類群に含まれる。
[2] ヘキサヘドライト・・・鉄隕石の中で、ニッケル含有量が5.8%以下のもの。カマサイトのみからなる。
[3] 離溶組織・・・高温では一相で安定だった鉱物が、温度が下がることで二相以上に分離した組織のこと。鉄ニッケル合金でも起こり、低温ではニッケルに乏しいカマサイトとニッケルに富むテーナイトに分離し、ウィドマンシュテッテン構造を作る。
[4] ウィノーナアイト(winonaite)・・・金属鉄を多く含む石質隕石で、アリゾナで発見されたウィーノ隕石を代表とする希な分類群。鉄隕石中にケイ酸塩物質を含むIABグループ鉄隕石と化学的に近縁であると考えられ、同一の母天体に由来したのではないかといわれている。
[5] カマサイト・・・隕石に含まれる鉱物の一種。鉄ニッケル合金で、鉄の含有量は90.1~95.5重量%。比重は約8で、六方晶系または等軸晶系。
[6] テーナイト・・・隕石に含まれる鉱物の一種。カマサイトと同じ鉄ニッケル合金だが、ニッケルに富む。
[7] シュライバーサイト・・・隕石に含まれる鉱物の一種。鉄とニッケルを主体とするリン化物。
[8] オクタヘドライト・・・鉄隕石の中で、ニッケル含有量が6~20重量%のもので、カマサイトとテーナイトで構成され、ウィドマンシュテッテン構造[9]を示すもの。
[9] ウィドマンシュテッテン構造・・・オクタヘドライトに分類される鉄隕石が示す金属組織。カマサイトとテーナイトの帯状組織(ラメラ状とも呼ばれる)を示す。